一緒に住まへんか?
家に帰ったら恐竜がいたので、とりあえずツッコミを入れてみた。 「な、なんでやねん……?」 「お、はつしも。おかえり」 関西米のはつしもだが、この手の軽やかな応酬というものには不慣れだ。ツッコミと呼ぶには冴えない声量でおずおずと声をかけると、部屋の奥から聞き慣れた声で返事がきた。 恐竜の影からひょっこり顔を出し、ぴらぴらとのんきに手を振る先客がいる。日本晴(にっぽんばれ)――同じ関西米としてスペシャルデュオのDREAMS KOME TRUE、通称『ドリ米(コメ)』として共に活動している相方だ。 「なんで勝手に人の家におるんや、じゃない、なんで恐竜とのんきに茶を飲んでるんや、日本晴」 「はつしもの家に行ったらこいつがおったから、あれっはつしもなんかな?て思って」 「俺は恐竜やない! お前とはデュオの相方として共に頑張ってきた仲やし、それなりに互いを理解し合えてると思っとったんやが……俺は恐竜やない。それがどうしてわからんかったんや」 「そやなぁ……でも良えやつなんじゃ」 わざわざ二回言ったことを拾ってくれるでもなく、日本晴は座布団に腰掛け、ちゃぶ台の果物籠からみかんをひとつ手に取る。今朝方は山盛りあったはずのみかんは残り二つまで減り、代わりに籠の隣にはみかんの皮が積み重なっていた。日本晴が皮をむいたみかんを半分に割って差し出すと、恐竜はおいしそうにぺろりと飲み込んだ。 「ほら、お行儀も良いし、みかんも好きみたいなんよ」 残り半分のみかんは自分でもぐもぐやりながら、日本晴はのんきに笑った。はつしもも座って食べや、と最後のみかんを差し出してくる日本晴。そのいつもの笑顔にごまかされそうになっている自分に気づき、はつしもはふるふるとかぶりを振る。 「いやいやいや。俺はこの恐竜?を家に入れた覚えはない! どこで拾ってきたんや! 元いたところに戻してきなさい!」 「わしが拾ってきた訳やないで、最初からはつしもの家におったんじゃ」 「しかしな……こいつは小さいが恐竜や! うちでは面倒見れん」 「でもな、少し考えてみ、はつしも。ここでお前さんがこの子と仲良くしとけば、ほら」 ひい、ふう、みい、と順番にこの場にいる頭数をかぞえて、日本晴は真剣な表情でこちらを見据える。はつしもは、その目を見返してひとつの真実に気が付く。まさかーー。 「ドリ米が、三人に……戻った……!?」 「そういうことや!」 自信満々といった様子で大きく頷く日本晴に、腑に落ちた顔でなるほどと呟くはつしも。 恐竜はふたりを交互に見つめながら、きょとんと首を傾げた。
アンソロ「恐竜、雷鳴、たまごのスープ」の執筆分