きみになる夢を見た


「ダンデ!ダンデ!」
「負けるな、ジムチャレンジャー!」
「ダンデ、今日もリザードンポーズ決めてくれよ!」

夢にまで見た、ファイナルトーナメントの決勝戦。
観客のボルテージは最高潮。地響きがうなるほどの歓声に身震いする。
いよいよ、ぼくとチャンピオンの戦いが始まる。

「良い戦いにしよう」
ふ、とダンデさんが笑いかける。

ぼくはボールを振りかぶって、投げる。
「いけ、ランクルス!」

出てきたのは――。
「え」
インテレオンが、ぼくの手持ちにいるはずのないポケモンが、不思議そうな顔でこちらを見ていた。

「ランクルス、ブリムオン……ギャロップは?」
あわてて手持ちのボールを見たけれど、共に戦ってきた大事な仲間たちは誰もいない。
それどころかこの顔ぶれは、彼女の――。

じゃあ『ぼく』は、誰なんだ?

はっとして顔を上げる。
実況ロトムが、チャンピオンのダンデさんと名誉あるジムチャレンジャーの姿をとらえている。
スタジアムの大きなスクリーンに映し出されたのは、ぼくではなく――ユウリさんの、顔で。
「そんな、」
そして、スクリーンの下の観客席でひとり。
こちらを羨ましそうな目でじっと見ている、ぼくがいた。

立っていられなくなる。地面がぐらぐらと揺れて、足元が崩れていく。
心配そうな顔をして、ダンデさんがこちらを見ていた。
「ユウリくん、どうした、大丈夫か!?」
ああ、違うんです。ぼくは、ぼくは――。



はっとして目が覚めた。
ブリムオンが心配そうに、ベッドに横たわるぼくを見下ろしていた。
「……ああ、起こしてくれたんですね。ありがとう、ぼくは大丈夫です」
汗をかいた身体が気持ち悪かった。
喉がカラカラに乾いている。
一息ついて、ベッドサイドの水差しに口をつける。ごくり、喉を鳴らしながら飲み込むと、喉を滑り落ちるつめたい感覚。
これが現実だとようやく実感できて、少しだけほっとした。
「……うなされていましたか。すみません、心配をかけましたね」
感情の昂りに敏感なブリムオンにとっても、負担だっただろう。
ベッドの隣でじっとぼくの様子を伺うブリムオンの手をとって、安心させるように両手で包みこむ。
伝わってくるぬくもりに安心したのは、ブリムオンのほうか、それとも――。

「ひどい夢だ」
ぽつりと零したひとりごとは、なんだか泣きそうな声をしている。

夢、なんて。
あんな夢を見るなんて。

まるで、ぼくが彼女になりたかったみたいではないか。