またね、明日の僕たちへ。


幼かった頃、僕たち全員にとって、おそ松は憧れの存在だった。
誰よりも面白いことを思いついて、真っ先に先頭を駆けていくのはいつだっておそ松だった。
「行くぞお前ら!」
そう叫んですぐさま走り出すおそ松を追いかけて、一生懸命に走った。その背中にすぐさま追いついて、いたずらを思いついたときのあの得意気な、にかっとした笑顔を見たかった。どんなことを思いついたのと聞いて、一緒に秘密のいたずら作戦会議をしたかった。
だけれども子供の頃からどんくさかった僕は足がもつれていつも転んでしまって、起き上がるころにはその背中はもうとっくに遠く離れていた。遠ざかっていく憧れの背中に待ってと手を伸ばすけれど、すりむいた膝の傷はその背中を追いかけるにはお荷物すぎるほどにじんじんと痛んでいて、僕はただその傷に泣かないように、唇をぐっと噛みしめることしかできなかった。
「ねえ、待ってよぉ……待ってよ、おそ松!」
いつだっておそ松の隣にいるのは僕じゃなかった。
六つ子の中でいちばん足が速くてすばしこい三男は、僕にとっては遥か遠くに見えたその背中に毎度あっさりと追いついてしまって、おそ松のアイデアに悪知恵を働かせては余計にたちの悪いいたずらに昇華させていた。悪質ないたずらをすることにかけては僕たち六つ子の中でもずば抜けてうまい二人だった。
弟の僕から見ても良いコンビだったと思う。
いつだっておそ松の隣にいるのはチョロ松だったし、おそ松はそんなチョロ松のことを、相棒と呼んだ。
だから僕は憧れていたのだ、あの二人に。叶うならば一緒に入れてほしかった。僕にいつも付いて回ってくれた、僕の相棒と呼ばれたカラ松のことが不満だったわけじゃない。合わせて六人いる兄弟の中で、僕にとって真っ先に頼れる存在だったのは間違いなくカラ松だったし、それは奴がイタい大人に成長してしまった今に至っても心の奥底にはあり続けている、揺らぐことのない信頼だ。
それでも。
誰が誰でも同じだった六つ子の中でも一番厄介で、一番の悪ガキで、一番目立っていたおそ松。
弱っちくて情けない末っ子の僕とは全然違う。
あの頃から、僕はおそ松のことを、どうしようもなく羨ましいと思っていた。



「ん……」
夢を見ていた。
夢、というよりは、どちらかといえば幼い頃の追憶だったような気がする。
まだ夢のイメージが残ってぼんやりとする頭を目覚めさせるように、上半身を起こして首を左右にふるふると揺する。
窓の外は薄く白んでいて、もうすぐ夜が明ける頃合いだ。昨日は早々に寝入っていたから、この時間でも睡眠は十分満足に取れている。ニートゆえに基本的に寝汚い傾向のある兄たちはまだしばらく起きないだろう。そっと布団を抜け出して廊下に出ると、春先のひやりとした空気に、反射的に体がぶるりと震える。一瞬暖かい布団に戻りたくなったが、負けじと背伸びをして、ついでにそのままストレッチへ移行する。首、肩、脚と順番に、固まっていた筋肉がほぐれていく。体に血が巡り、だんだん身軽になっていくような感覚がすこし心地よかった。
動きやすいツナギを着込んで簡単に身支度を整えたら、玄関へ向かい靴を履く。いつもの外出用とは違う機能性重視の靴。とんとん、とスニーカーのつまさきを蹴って履き心地をなじませる。
静かに玄関扉を開けると、昇りかけた太陽の薄い光が見慣れた下町の風景を美しく彩っていた。ひとつ深呼吸すると、早朝の凛と澄んだ空気が肺を満たす。目覚めはばっちり、コンディション良好。今日も良い朝だ。
そして僕は走り出す。たったっ、と軽快な足音が早朝の静かな町に響く。まだ町は目覚めきらず、僕ひとりきりが、すこしだけ早い速度で町の中を駆けていく。清々しい気分だった。
きっかけはなんだったろうか、友達の誰だったか、あるいはお昼か深夜の雑多なテレビ番組だったか、そのあたりに影響されたのだったと思う。最初は気まぐれに始めた早朝ランニングだったが、思いの外性に合っていたらしくいつも飽きっぽい自分には珍しくそれなりに続き、いつの間にか習慣となった。天気が悪い日や飲んだ次の日は休み、それ以外の調子の良い時はなるべくサボらない。その程度の縛りだったけれど程よい塩梅だったようで、苦もなく続けられている。健康的だし、朝だけはひとりきりになれる。昼の雑音が多い下町の賑やかしさも嫌いではないけれど、この早朝の静けさも、知ってみれば存外悪くないものだった。
徐々にスピードを上げていくと、苦しくて息が上がる。ここのところ天気の悪い日が続いていたから走るのは久しぶりだ。わずかになまった体のカンを取り戻すべく、ややキツく感じるくらいの速度を保って走り続ける。いますぐ止まりたいと願う自分がいる一方で、理性的な体が足がもつれないようにペースを作っていく。痛む脇腹を押さえて呼吸を整えて、リズムを作る。そのうちにすこしずつ体が慣れてきて、苦しみは心地よい速度に変わる。この瞬間がなんだか好きで、この早朝ランニングを続ける理由にもなった。規則的な呼吸と足音、静けさの中で自分の体の音だけがすべてだった。
「松野は長距離走のほうが向いているなあ」
中学生の頃、体育祭の練習で取り組んだ短距離走で伸び悩んでいたころの体育教師の言葉を不意に思い出した。必死で酸素を吸い込もうとする肺と悲鳴をあげる筋肉のことを、今でも体が覚えている。東京の小さなグラウンドで走った100メートル、たった十数秒の刹那。それなのに、どうにも後半は足がもつれてしまってダメだった。幼い頃から転び癖があった僕はどうにも短距離走のペースを掴むのが難しかった。あの時は体育教師の言葉がただの慰めにしか聞こえなかったけれど、今なら素直に受け取れるかもしれないと思う。確かに、長距離を走ることは嫌いじゃなかった。むしろ好ましいと思ってさえいる。
だけれども残酷にも、あの頃の価値基準なんてものは短距離走がすべてだった。
体育祭の花形も、クラスの人気者も、そして僕たち六つ子のリーダーも。
足が遅くて悔しさにぐずぐずと鼻を鳴らしている僕にみんなは注目してなんてくれない。
現実なんてそんなもんだ。
――もし速く走れたなら。あの背中に追いつけていたなら。
僕じゃなくてチョロ松兄さんが相棒だったのは、そんな単純な話だけじゃないってわかっていても、それはずっとみっともなく僕の心のわだかまりとして隅っこに残り続けていた。
ただひとつでも得意なことを見つけられたのはとても良かったことだと思う。僕の得意な長距離走。派手さはないけれど、地道に忍耐強く走り続けること。大人になった今ならば、ただ単純に足が速いことと比べても引けを取らないほど、こうして長時間走り続けることができるのも悪くない特性だと思う。
それでも、ずっと追い続けることだけが得意だなんて、とんだ皮肉だと思った。

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家に帰るとおそ松兄さんがこたつの中で転がっていた。
「おっかえり〜トド松。相変わらず早いねえ」
「ただいま。他の兄さんたちは」
「まだ寝てる」
「ふーん」
「お前なあ、もっと兄弟に関心持てよ」
おそ松兄さんのありがたみもない説教というかわがままにも近い話を適当に聞き流しながらシャワーを浴びに風呂場に向かう。
「そういえば、おそ松兄さんも早いね」
寝汚いことでは兄弟ランキングの中でもまあまあ上位に食い込む実力者であるところのおそ松兄さんだ。その兄さんが朝食よりも早く起きていることは珍しくて、なんとはなしに問いかける。関心を持たれたのが嬉しかったのだろうか、おそ松兄さんは嬉々として話し始める。
「そうそう、そういうかんじだよトド松ぅ〜! なんてったって隣町の新台が今日からで、俺、張り切って早起きしちゃった」
「あそ」
「あのなー! だからもっと関心持てってば〜」
無視して風呂場に直行した。あのクソ長男、朝から元気すぎる。下手にあの場に居残れば足元に縋りつかれてお兄ちゃんを構え攻撃が出て来る未来が見えたので、こういう時はスルーに限る。上がる頃には駄々も落ち着いているはずだ。

「なあトド松ぅ〜お兄ちゃんと新台行こうぜ〜!」
まだ元気だった。くいくいと腕をひねるあの動作。
「トド松〜もうこの際お馬さんでもいいから行こうぜ、お馬さん、好きだろ〜!?」
「新台はどこ行ったのさ……」
構ってくれるならどこでもいいのか。
「構ってくれるならどこでもいいんだよ」
良いらしい。
「まあ良いよ、新台行こうよ」
「マジ!? やった〜!」
「勝ったらビール奢ってよね」
「オッケーオッケー! ひゃっほーう」
はしゃぐおそ松兄さんの後ろで、朝食の準備を終えた母さんが残る兄たちの布団を引っぺがしに向かっていた。


「ん、どこ行くの、二人で」
玄関で並んで靴を履いているところで、チョロ松兄さんに見咎められた。うきうきした空気がふたり揃って背中から出ていたのだろうか、その言葉にはやや警戒するような色が込められていた。
「コレだよコレ」
おそ松兄さんがいつものくいくいと手首をひねる動作をすると、チョロ松兄さんもすぐに察して溜息をつく。
「好きだよねえ」
「まあなー。それに今日はトド松が一緒だし」
「勝ったら奢りって聞いたから行くんだから。絶対忘れないでよね」
「へいへい」
「……二人ともたまには就活でもしたら」
「え、チョロ松兄さん、まだシューカツなんてしてるの?」
「ひゃ〜意識高いね〜、ニートなのに」
「うっわ〜また自意識ライジングとかやめてよね?」
「またナンパ行く〜? 俺は全然いいけどさ」
「まあ大丈夫だよおそ松兄さん、どうせまたするするって口先だけのやつでしょ〜」
「うるさい! さっさと行けよもう!」
「「はーいいってきまーす」」

出掛けにチョロ松兄さんを煽るだけ煽って外出する。
おそ松兄さんは人を苛立たせるための話し方に関して天才だと思う。僕はそれに乗っかるだけでいい。
特にチョロ松兄さんは律儀にいちいちつっかかってくるから、煽りがいがあって楽しい。
−−なのになぜか僕相手にはやたら上から目線で来るのがむかつくんだよなあ、とか。
チョロ松兄さんは多分、無意識で人を苛立たせるのが上手い。
そういうラインの調節ができるかどうか、そのあたりが僕がおそ松兄さんの好きなところで、チョロ松兄さんのちょっと嫌いなところだ。
冗談で言ったいつかの兄弟ランキングじゃないけれど、これでも末弟。五人の兄弟をすべて兄という同じ土俵に並べられるのは僕だけの特権なのだと、ひそかに思っている。それはおそ松兄さんにとっての弟、という見方と同じなのかもしれないけれど、おそ松兄さんは弟のランキングはつけていなさそうだな、というイメージ。五人の兄を兄という立場で並べて比較するのが僕ならば、五人の弟を弟という箱に入れて平等に扱うのがおそ松兄さんだ。同じクズでも器が違うというか、余裕があるというか。そういうところでなんとなく自分の小ささを感じてしまう。
勝手に理不尽な悔しさを抱きながらおそ松兄さんを見ると、おそ松兄さんは、困ったような顔で、笑っていた。

「なんだよハロワとか就活とか、どうせやらねーくせにさあ。な、トド松」

僕が言いそうな台詞だった。あるいは普段通りであったなら僕が先に言っていたくらいだと思う。
でも、その時に僕の頭の中をよぎったのは、あの日の出来事だった。

−−あの日。忘れもしない出来事。チョロ松兄さんの就職が決まって、お祝いに豪勢なお寿司なんか頼んではしゃいだ最後の夕食、それから、この家を離れていくトラックが小さくなるまで見送った日のこと。
見たことないくらいに暴れていたおそ松兄さんのこと。いまにも泣きそうな笑顔でトラックに乗り込んでいくチョロ松兄さんの横顔。
日頃からあれほどベタベタ馴れ合っていた僕とおそ松兄さんが、子供の頃以来の殴り合いの喧嘩をしたこと。
それから数日の後に僕が家を出たこと。次々と兄弟たちが家を出ていって、最後にはおそ松兄さんただ一人だけが家に取り残されたこと。
ぜんぶ、ぜんぶ現実のことだった。センバツに出て、負けて、それからは日常に戻って、なんとなくやり過ごしたように見せかけているけれど、僕たちが経験したあの日々はすべて紛れもなく現実だった。
誰もが忘れたふりをしている。まだ続けることを許されたモラトリアムに、再び僕たちは甘えることにした。
『でも、おそ松兄さんだって、わかってるんでしょ』
口をついて出かけた言葉を飲み込む。これは、楽しい外出の始まりにわざわざ今言うべきことじゃない。

「−−まったくだよね。チョロ松兄さんなんて置いてさっさと行こ、おそ松兄さん」
「おう! よっし勝つぞ〜!」

もう昼時にも近く太陽は高く昇っていて、僕たちは街の雑踏の中へと二人、繰り出していく。


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はあ、とひとつ溜息をつく。
相変わらず僕を苛つかせることに関してあの二人が組むと厄介なことこの上ない。ちっとも働こうともしない二人のことを思うと頭が痛くなる。あるいはこの痛みは怒りのせいか。
さっき一瞬で血が上った頭は冷えてきたけれど、ふつふつとした怒りがまだ腹の底で煮えている。それはライジングだなんだと悪口を言われたことに対してじゃない。
いつまでも大人になりきらない兄弟が、ずっと、腹立たしかった。
ふすまからシンプルな黒の鞄を取り出して、付箋を貼ったチェック済みの求人誌をしまい込む。クリアファイルにとじた丁寧に書き込んだ履歴書と一緒に。白いワイシャツを羽織って、鏡で身だしなみをチェックする。うんざりするほど見飽きた顔が鏡の向こうで不安そうな表情をしていた。
おそ松兄さんが何を考えているのか、いまの僕にはよくわからない。いつでも六人一緒だった幼少期はもちろん、それが過ぎても僕たちふたりはなにかとつるむことが多かった。あの頃はおそ松が考えることはすぐにわかった。どんないたずらを思いついたのか、悪巧みをするときに見せるあのきらきらとした目とその視線の先を追いかければ、僕がなにをすればもっとおもしろくなるのか、いくらでも考えついたのだ。そうして子供の頃はアホみたいにいつでも隣にくっついていろいろと騒ぎを起こしていたくせに、別々に行動するようになったのはいつからだろうか。
大人になるにつれて、離れている間になにをしているのか、少しずつわからないことが増えた。他の兄弟たちも同じだったとは思うけれども、一番の仲間だった『相棒』について、僕が一番よく知っていることが、なんだか誇りでもあったのだ。
今となっては、もしかしたらあの末の弟のほうがよく知っているのかもしれない。
あれはあれでなにを考えているのかよくわからないいちばん下の弟は、バイトをしたり趣味のサークルに行ったり、なにやら兄弟が誰一人として知らないところでもいろいろと動き回っているらしいけれど、兄弟で過ごす時はおそ松兄さんの隣にいることが増えた。
なんだか、甘やかしているように見えるのだ。それが腹立たしい。いつまでもこのままでいられるわけがないのに、そんなこと兄弟揃ってみんなが知っているはずなのに。僕が『あの日』のことを話題に出すたび、なんのこと?みたいな顔をするあの末っ子に苛立ってしまう。お前がそうやって甘やかすから、子供のままでいることをおそ松兄さんに許しているから、だから――。
ぶんぶん、と首を勢い良く横に振って、暗がりに向かいそうになる思考を振りほどく。
慣れないネクタイを数回結び直してようやく準備が整った。鏡の向こうの自分に笑いかける。大丈夫、行ける。
真新しい革靴を履いて外に出てみれば、春の陽気で暑いくらいだった。
駅に向かう道のり、忙しなく働く人々の姿が今の僕の目には痛い。彼らはまっとうな人々だ。僕たちがなれなかった人々の姿だ。どこでこうなったのかなんて思い出せないしこの人生に都合の良いやり直しなんてきかない。
それでも。

「僕たちは、前に進まなきゃいけないんだ」

本当はあの頃みたいにずっと一緒に走っていきたかった。
今のおそ松兄さんが考えていることは今の僕にはわからないけれど。
僕は、信じているんだ。

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「ただいまー」
「あれトッティだけ? おそ松兄さんは?」
玄関を開けるとちょうど帰宅したところと思しきチョロ松兄さんと鉢合わせた。
朝のことはもう忘れているらしく、苛立った様子はなくて一安心する。というか今は僕のほうが若干不機嫌なくらいだった。
「一人でめちゃくちゃ勝っててむかついたから置いて帰ってきた」
「ガキかよ……」
呆れたようにチョロ松兄さんが視線をよこす。とはいえ言い返す言葉もない。どうせガキだよ僕は。
「チョロ松兄さんはシューカツ、どうだったのさ」
「どうせ馬鹿にするつもりだったんだろうけど、僕は今日ちゃんとハロワ行ってきたから」
「行っただけじゃないの……」
「月末に面接」
「え。マジで言ってる?」
「マジだっつーの!なんだよその疑いの目!」
「いやだってあのチョロ松兄さんがねえ、本気で就活するとは」
「あのさあ僕は一度はちゃんと就職したことあるんだからな!? 忘れたの?」
「忘れるはずないでしょ」
忘れるはずがない。
なんだか今日はよく『あのこと』を思い出す。
僕たち――少なくとも僕にとってはあれはかさぶたみたいなもので、それなりにしんどい思いもしたし、控えめに言っても良い思い出じゃあない。まだ治りきらなくて、こうして思い出すたびに少しだけ鼻の奥がつんと痛むような気がして。チョロ松兄さんがこんなにも当たり前みたいに『あのこと』を口に出すのが不思議であり、すこしだけ怖くもあった。
「ねえチョロ松兄さん、また就職する気なの?」
「僕は最初からずっと就職する気だけど?」
「結果就職したとはいえ、一時はダヨーン族にまでなったくせに偉そうなことを……」
ちょっと本気で睨みつけられて口をつぐむ。しまった、また不機嫌にまかせていらんことを言うところだった。
チョロ松兄さんの地雷なるものを僕はよく踏み抜いているらしいけど、僕自身にはあまり実感がないから気をつけることも難しい。
いつもチョロ松兄さんからアイスピックのような罵倒を受けてようやく理解するのが常だった。
チョロ松兄さんの罵倒ってけっこう容赦ない。「いらない存在のくせに」とか。ふたりや三人の兄弟だったら、もしかしたらそう思ったかもしれない。あるいはひとりだけできのいい存在がいる、とか。だけれども僕たちはそろいもそろってクズでニートな六つ子だ。僕がいらない存在なら少なくともあと4人くらいは不要なはずだ。あるいは残り5人もあわせて全員いらない可能性すらある。気楽なものだった。みんな同じだからこうして安心して生きていられる。僕たちは僕で、僕が僕たちでいられる。
僕たちが僕でありながら、誰が誰でもない僕たち。
長男から末弟まで一列順に並んだ今とは違って、そう、あのころは−−誰が誰でも同じだったのに。
いつからだっただろうか。
「ねえ、チョロ松兄さん、覚えてる?」
「あ?」
「僕、いつから、兄さんって呼ぶようになったんだっけか」

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河原沿いの、春になると桜並木がめいっぱい咲き誇る川辺の道。
鼻水と涙でぐしゃぐしゃになった僕は、おそ松に手を引かれて歩いていた。
きっかけは思い出せないけれど、派手に転んだとか、同級生とケンカして負けたとか、そういう幼稚でちっぽけなものだったと思う。幼く狭い世界では一大事だったけれど、振り返ってみれば大した話ではなかった。
「ねえ、なんでおそ松と僕は違うの?」
だけれども自分が話したことだけはいやに鮮明に記憶に残っている。泣きわめいた勢いで全部吐き出そうとする心とそれをそのまま口にする自分の唇の動きが、感覚としていまもはっきりと思い出せるほどに。
「おそ松はいつも一番なのに、僕はどうして」
誰よりも面白いことを思いついて、真っ先に先頭を駆けていくのはいつだっておそ松だった。
そんなおそ松が羨ましくて、憧れで、でも、少しだけ嫌いだった。
同じ顔をした六つ子のはずなのに、全然違うから。おそ松にはできることが僕にはできない、違う人間なんだから当然なはずだったけれど、みんなが僕で僕がみんなだと、そう信じていた頃の僕にはそれがまるで理解できていなかった。
「なんで、僕はおそ松じゃないの。おそ松みたいになりたいのに」
全部が同じだと思っていた。みんなが僕で僕がみんななら、みんなができることは僕にだって当然できるものと思っていたのだ。
「まあ、俺、『長男』だからさ」
「おそ松……」
「お兄ちゃんだからさ」
ぐずぐずと泣き続ける僕を宥めるように、頭を撫でて。
おそ松兄さんが、笑っていた。

---

「そうやって言ったけれど本当は僕はおそ松兄さんになりたかったんじゃなくて、おそ松兄さんに置いていかれるのが嫌だっただけなんだよね」
ビールジョッキを呷る。同じペースで飲んでいるはずだから酩酊具合は同程度。このままいけばそのへんで一旦寝るかもしれないけれど吐きもしないし記憶も飛ばないだろう。
酒の勢いに任せて洗いざらい話した。こんなくだらない昔の話まで。
同い年の兄の五分の一。互いの言動がすぐに地雷と化すくらい気の合わないヤツ。でも家族で、なんだかんだ面倒見が良くて、話してみればどこかわかってしまう部分もあって、だから間違いなく僕の兄なのだった。
チビ太は僕たちの話を聞きながら、でも何も言わなかった。おでんとビールを黙って出してくれるイイ奴だった。

「だからきっと、僕はチョロ松兄さんになりたかったんだ」
おそ松兄さんが憧れだった。一緒に走ってみたかった。
まぶしい太陽みたいなあのひとの隣に並んで、どこまでも走っていきたかった。
「それなのにチョロ松兄さん、いつのまにかひとりでいい子になっちゃってさ。なんか僕、がっかりしちゃって」
「勝手に兄に幻滅するなよ、悲しくなるだろ……」
「でも、だからさ、おそ松兄さんをなんとかできるのは、相棒だったチョロ松兄さんだけだよ。たぶんね」

悔しいけれど、それが僕じゃないってことだけはわかってる。
チョロ松兄さんはきっと知らない。あの日、あの後に起きたいろいろなことのうちのひとつを。見送りに来なかったおそ松兄さんと僕のこと。
僕にとっては一世一代の決心ってくらいの気持ちで殴ったのに、なんにも変わらなくて。ただみっともなく青アザを作って、家を出て行くことしかできなかった僕を。
結果的にカラ松兄さんや他のみんなに少しは伝わったのかもしれないけれど、でも、届かなかった。

「いや、でもそんなこと言われても困るっていうか……。だいたいあいつだっていい大人なんだから、自分のことは自分でなんとかすればいいんじゃないの」
「ま、そうなんだけど。でも言いたいことはちゃんと伝えといたほうがいいよ。なんでもいいんだきっと、手紙でも、殴り合いでもさ」

チョロ松兄さんが一瞬視線を反らしたのを、たとえ酩酊していたとしても、見逃さなかった。僕にはそれを見逃さないだけの理由がある。例え話みたいに言ったけれど僕はわざと知っていて言ったのだ。
『あの日』の前夜、荷物をまとめていたチョロ松兄さんが隠したモノ。
鞄にしまいこんでそれっきりだったあの手紙を、その存在を、僕だけが知っていた。

「いつかは大人にならなきゃいけないんだ、僕たちだって」
すこしの間の沈黙を破る、小さく、でも意志の込められた声。
ビールジョッキを握りしめて、ぽつりとチョロ松兄さんが呟いた。
相棒だからってだけじゃない、誰よりも大人になりたいって思ってる、前に進みたいってちゃんと思ってるチョロ松兄さんだから届くはずなんだ、きっと。
「そんなこと、クソ長男はわかってんのか知らないけどさ」
「わかってるよ。たぶんさ、わかってるけど、わかりたくないだけなんだ」
「子供かよ」
「……長男なんだよね」
「そんなこと僕だって誰だって、頼んじゃいない」
「うん……」

チョロ松兄さんが最後のビールを呷るのを眺めながら、瞼を閉じた。その瞬間に眠気がどっと押し寄せてくる。意識を手放す。しばらくしたらチョロ松兄さんは寝入った僕を起こすなり、あるいは引きずるなりして、いずれにせよなんとか家まで連れ帰ってくれるだろう。普段は突き放すようなこともさらっと言うくせに、いざとなるとなんだかんだと面倒見の良いことで、そういうところで僕たち兄弟のことを放っておけないのがチョロ松兄さんの良いところで、好きなところだ。
じゃあそういうわけで、いろいろと。
あとはよろしくね、チョロ松兄さん。


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結局、あの後に何があったのか、あるいは何もなかったのか。僕は何も知らない。


それから特に変化のないいつもどおりの日々が続いていた。
そして今日も僕はいつもどおり六人一緒の布団で目覚めを迎える。
朝日がカーテンの隙間からうっすらと差し込んでくる。兄さんたちは全員揃って眠っていた。

音を立てないように気をつけて、するりと布団を抜け出す。
と、突然何者かに足首を掴まれて思わず息が止まる。その手の所在を確かめるのが数瞬遅かったら叫び出していたところだ。冷静に、その手がたしかに見慣れた人間にくっついていて、あたたかい体温を感じることを確認する。
「な、なんだ、おそ松兄さんか……」
「こんな朝っぱらからオバケもないだろ」
よっ、と小声で呟きながら起き上がる。
「早いね」
「トド松の方が早いじゃん」
「僕はいつもひとりで走ってるから」
「じゃあ、今日は散歩しようぜ。散歩」
「え。おそ松兄さん、行くの」
「散歩な。走るのはさすがにちっとキツいわ」
「いいけど」
そう返事する前に、既におそ松兄さんはさっさと寝室を出ていってしまう。
「ちょっと、待ってよ」
まだ寝静まったままの兄たちを蹴飛ばさないように注意しながら、その背中をあわてて追いかける。



河川敷を彩る桜並木は花ざかりをすこしばかり過ぎて、薄桃色の花のむこうに葉の緑色がちらほらと顔を覗かせていた。先日降った雨のせいで舞い散ったたくさんの花弁が、湿り気とともに敷き詰められている。ひびわれたコンクリートを埋め尽くして造られた、桜色の小道。
――もうすぐ、春が終わる。
おそ松兄さんと僕はその道を、肩を並べて歩いていた。

「弟なのに、なんかさあ、大っきくなったよなー。お前ら」
「いや六つ子だし。同い年だし」
苦笑しながらそう返す僕に対して、おそ松兄さんは存外真面目な顔をしていた。
「なんだよ俺が長男なのに、生意気だぞ。ずうっとかわいい弟でいりゃいいのにさあ」
なんとなく返す言葉に迷って、少しだけ不自然な会話の間が生まれる。
ざあざあと流れる川の音が沈黙の間を通り抜けていく。
「六人でいられなくなるの、不安だった?」
また、少しだけ間が空いて、おそ松兄さんが笑った。
「だって寂しいじゃん。なんだよ弟のくせに、お兄ちゃんより先に行くんじゃねーよ」
なんつって、とおどけたように笑う。
それが冗談めかしただけの本心だってことくらい手に取るようにわかる。
——だって僕たちは、兄弟、だから。
「ま、寂しい、ってちゃんと言えるだけ前よりマシなんじゃない?」
「なあ末っ子、お兄ちゃんはそういうとこが生意気だぞってゆってんだけど」
「じゃあまた拳で殴り合ってみる? そんで前みたいに僕のかわいい顔に青アザつけちゃったりしてさ」
「いや、お前、そういうとこ本当容赦ねーのな……悪かったってあの時は。マジで」
「一生言い続けてやる」
「うわあ陰険なやつ。ねちっこい男は嫌われるよ〜?」
「うるさい」
時折言葉が途切れる静寂の間に、ざあざあと流れる川の音。
ゆるやかで大きな川の流れに逆らうように、上流に向かって僕たちはのんびりと歩き続ける。
桜色に彩られた並木道は、長い川沿いにずっと先まで広がっている。まるで永遠みたいに。美しく儚く散る桜の花びらの中を泳いで、いつまでも、どこまでも行けそうだった。
「でも僕はさ、兄さんはそれでいいと思うんだよ」
「さっきと言ってること違くね?」
「違くないよ」
「ふうん」
「僕はさ、おそ松兄さんと一緒にいると楽しいって思うよ。ノリが合うし、気を遣わなくて良いし、清々しいほどダメでクズだし、常に暇そうだから誘ったら絶対断られないのが都合良いし」
「褒めてる?」
「いや別に褒めてないけど」
「だよな」
「でも楽しいよ。ほんと、ずっと一緒にいたいって思うくらい。――兄さんが僕たち兄弟全員に対してそう思ってくれてるみたいにさ」
相槌はなかった。なんとなく気恥ずかしくて目を合わせられなくて、おそ松兄さんが今どんな顔をしているのかはわからないままだった。どんなふうに思ってるのか、どんな表情で僕を見ているのか、僕にはわからない。でもおそ松兄さんがちゃんとぜんぶ聞いてくれているのはわかっているから、構わずに話し続ける。足元に落ちていた小枝が、踏みしめた拍子にぱきりと小さな音を立てるのが聞こえる。流れる川の音がざあざあと鳴り続ける一方で、僕の心臓の音まで聞こえてしまいそうな、ざわついた静寂。すっと息を吸う。いつでも強くあるようにと自分に言い聞かせながら。
「兄さんだって、ずっとこのままじゃいられないって知ってるでしょ」
「んー。ま、わかってるけどさ」
「僕だって、本当はこのままでいたいって思う。六人全員でつるんで悪さしてイヤミに怒鳴られて、父さん母さんに窘められたり呆れられたりして、そんなふうに、子供の頃みたいにずっと過ごしたい。モラトリアム万歳、ってかんじだよ。でもチョロ松兄さんはきっと今も大人になりたいって思ってるし、いつかまたその時が来たらチョロ松兄さんの気持ちを尊重してあげたいと思ってる。僕のバイトはめちゃくちゃにするし合コンには連れていけないしほんとにクズでどうしようもないニートな兄さんたちだけど、きっと全員どこかでいつかは大人にならなきゃいけないって、わかってる」
「うん」
「僕も、またバイトしてみようかなって。今度は邪魔しないでよね」
「えー。休みの日はちゃんとお兄ちゃんのこと構えよ」
「はいはい」

生まれた瞬間から今この歳まで常に僕を取り巻く五人の同じ顔のニート。
わがままでどんくさい僕をいつも甘やかしてくれた、僕の隣にいてくれた、カラ松兄さん。いつもマイペースなのになんだか僕には兄ぶってくれちゃう、優しい十四松兄さんと一松兄さん。それから、ぼくたちの一番星とその相棒だった、憧れだった、おそ松兄さんとチョロ松兄さん。ろくでもない兄さんたち、最低の悪魔たち。だけれども、決して嫌いになることなんてなかった。
同じ顔をしていても、ひとりひとりが色とりどりの兄さんたちだったから。

僕はずっと、ぼんやりとだけれど、強くなりたいって思ってた。
それはきっと、『僕だけのなにか』がほしかったんだ。
僕にはなにもなかったから。

嘘で塗り固めた経歴、流行に合わせるための服装、なにもないからっぽの中身を周りに合わせて取り繕いながら生きることしかできなかった僕。そんな僕にとって、ダメでクズのままありのまま生きて、それでも愛されるおそ松兄さんのそういうところが大好きで、羨ましかった。

「ねえ、僕さあ、おそ松兄さんのこと結構好きだよ」
「え、突然どうしたんだよ〜。照れるなあ」
――ダメでクズだけど、ありのままに生きて、それでもみんなに愛されてるおそ松兄さんのこと、僕も好きなんだよ。
おそ松兄さんはへへ、と笑って鼻の下をこする。はにかむときのいつもの癖。
「俺もトド松のこと好きだよ。お馬さん付き合ってくれるし、へそはちょっとわかんねーけど、選ぶ本の趣味は悪くないし、今日はちゃあんとバイトの話も教えてくれたしな」
にかっと笑う、いつもどおりのおそ松兄さんの屈託ない笑顔。
兄弟の中で誰よりも頭一つ抜けてダメでクズでしょうもない人なのに、一番にみんなから愛されるところ。そして本当に心から、ありのままで僕のことを受け入れてくれる。ダメでクズな僕でもいいと言ってくれる。
このひとのこういうところが、昔は嫌いで、そして、ずっと大好きだった。
「そっか。——ありがとね、兄さん」
そう言って向かい合った顔は、僕と同じ顔なのに、僕とは違う表情。兄弟だけど、六つ子だけど、こういう時に僕たちは同じ人間じゃないんだなあと思う。これは僕たち誰でもなく、おそ松兄さんの顔だ。
「でも一つだけ言いたいことがあるんだけど」
「よっし言ってみろ弟よ」
「僕の『本』、持ち出してない? 使ったならちゃんと返して」
「あ、悪い悪い。あとで戻しとくわ」
「そもそも兄弟のコレクション借りるとかないわーって言ってなかったっけ?」
「お互い様だろーそんなん」
「まあ、ね」

顔を見合わせて、どちらともなく笑い出す。なんだかどうしようもなくおかしくて、けたけた笑っているうちに涙まで滲んできて、どっちのものかもわからない笑い声が混ざり合って、そうしてそのうちに川のざあざあと流れる音の中に溶けて消えていく。
この瞬間が、まるで散りゆく桜みたいに儚くて、あまりに愛おしくて。

ああ。
僕はおそ松兄さんとこうして、並んで歩きたかった。

一陣の風が吹いて、散ったばかりの桃色の花弁が足元からぶわっと舞い上がる。
周りが景色が桜の色に染まる。これは僕の色。見慣れた色。
「お前のパーカーの色だ」
そう言って笑うおそ松兄さんの隣に、僕だけがいた。

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チョロ松兄さんが就活したり、僕がバイトをしたり。そういう進み始める予感のする物事に対して、おそ松兄さんは前よりも普通にそれらを認めてくれるようになった気がした。
いつか終わりが来る。おそ松兄さんだけじゃない、それはみんなが知っている。
だけれどもその終わりの日までの時間を、未来から目を背けて過ごすんじゃダメなんだ。
――僕は、強くなりたい。
兄さんたちの背中に隠れなくても、ひとりの『松野トド松』として生きられるように。
いつか来るモラトリアムの子供時代の終わりに怯えずとも済むように。
そうしたらきっと今度こそ、チョロ松兄さんは前に進んでいく。
そしておそ松兄さんも、それをちゃんと見届けられるはずなんだ。

家に帰ると、チョロ松兄さんが玄関先で待っていた。
「どこ行ってたの、ふたりとも」
「散歩?」
「散歩かな」
「ふーん。まあ良いけど」
チョロ松兄さんが着ているのはいつものパーカーじゃない。
白くぱりっとしたワイシャツ。落ち着いた色のネクタイ。
「あー、そういえば今日だっけ。面接」
「そ」
「緊張してる?」
「まあ、それなりにね」
「おっ。なんだよチョロ松。今日はやけに素直じゃん。これから面接? 緊張してんの?」
「いやだから普通するだろ! 何度も聞くなクソ長男!」
「俺は一回しか聞いてないのに……」
「僕はもう二回答えてるんだよ! 話聞いてなかったのか、しかも緊張してるのって聞かれたらなおさら緊張するっつーのに……これだから人の気持ちを考えてないやつは嫌だ、こっちがどんな気持ちでこの時間を過ごしているか考えもしないで、これまでどんな思考で生きてきたんだよ理解できねえ」
「あー出た出た暴言タイム、人格否定は良くないって、そんなんで面接行けるのか? ほらリラックスリラックス、深呼吸しろ、せーのっヒッヒッフー」
「いいから黙れよクソ長男はさ〜〜」
そんな調子でしょうもない言い合いをする兄さんたちをぼうっと眺める。僕なんて入る余地のないあの頃みたいな相棒同士の距離感が、久しぶりにそこにあるような気がした。そんな二人をただ眺めるのが実のところ好きだったりする。あの頃の僕が憧れていたふたりの背中が、今も変わらずそこにあるように感じられて。
あの日届かなかった手紙に書かれていたこと。おそ松兄さんにとってきっと必要だった言葉。
チョロ松兄さんはおそ松兄さんにちゃんと伝えるべきことを伝えられたのだと、僕は勝手に思っている。それはふたりの間にあれば良いこと、おそらくは僕が知らなくても良いことだ。たとえばさっきふたりでおそ松兄さんと桜並木の中を散歩したことだって、僕にとっては必要な時間で、だけれどもこのことはチョロ松兄さんには取り立てて話はしないのだろう。いつかみたいに、酒の席でぽろっと話したり、そのくらいはするかもしれない。そのくらいのものだ。
そういうとりとめのない時間が、すこしずつ、僕を強くしてくれるのだ。

だから、それまでの日々は、いつもみたいに楽しく過ごせばいい。
こうして。
いつかどこかで、前に進み始めた明日の僕たちに会うことがあるのかもしれないけれど。
それまでは「またね」。

明日また会う変わらぬ僕たちの毎日へ。


C92発行